伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

伊万里読み聞かせボランティア 吉村勝子さん

あのね、むかーしむかし。

庄屋さんの所に、とても器量が良くて心も優しい、娘さんがいました。

その娘さんが、お使いに行って帰っていたら、

子どもが山太郎蟹(がね)をひもにくくって、ブラブラ下げていました。

「あんた、その蟹はどがんすっとやあ」と娘が聞くと、

「うん。そこん川で捕まえたけん、煮て食おうで思うて持って行きよっ」と、

その子供が答えました。

「その蟹ば私に売ってくれんにゃあ」と、言ったら、

「よかばん」と言って、蟹を渡してくれたので、

少しばかりのお金をあげました。蟹に、

「早う、こがん所ぇうろうろせじぃ、早う行きんさい」と言って、川に流してあげました。

そのころ、お父さんの庄屋さんが田廻りをしていたら、

蛇が蛙を飲みかけているのをみかけました。

蛙はギイーギイー言ってるので、

「そがん、あがんと、そりゃ飲まんちゃ逃がしてやらんかい」

「家に良か娘のおっけん、お前さんに嫁御ぇやってもよかばい」と、

庄屋さんは実際にそんなことが出来るとは思わないで、

つい、蛇に言ってしまいました。

すると、庄屋さんの言葉を信じたのかどうか分かりませんが、

蛙を離して、庄屋さんの顔を黙って見ていました。

庄屋さんは、後でなんとなく気持ちが悪くなりましたが、そのまま家に帰りました。、

でも、そのことがなんとなく気になったので、その晩はしっかり戸締りをして寝ました。

そうしたら、夜中になってから誰かが戸を、トントン、トントン、叩くので、

「どなたさんじゃろうかあ」

「もう、夜中じゃったとこれぇ」と、言いました。

「どがんじぇい、戸ば開けてくいござい」と言うので、

戸を開けたら、若い男の人が立っていました。

「どちらさんじゃろうか?」と聞いたら、

「そのわけは、庄屋さんと約束してくんさった私ゃ、蛇の化身です。

その、自分は嫁さんば迎いぎゃ来た」て答えました。

庄屋さんはびっくりして、こんなことがあるのだろうかと思って、娘にそのことを言うと、

「あの、はい」

「お父さんが、そがんして約束ばしござったない、そうしましょう。

そいが代わりぃ、今日は、まさか今日、お出でんさろうとは思わんじゃっけん、

何も用意しとらんけん、三日待っておくんさい」と、

その娘が、蛇の化身の若い男の人に言いました。

すると、若い男は、もっともだと思って、

「そいぎぃ、三日目に来っけん」と言って、帰りました。

それから、お父さんもお母さんもびっくりして、これはどうなるんだろうかと思いました。

それでも、娘さんは平気な顔して、さっさと夜の明けるのを待って、

ものすごく太い木で自分が入ることが出来るように、

一寸の隙もなく、針を刺す隙もないような箱を、

腕の良い大工さんに頼んで作ってもらいました。

そうして、三日目には自分が、その中に入りました。

そこに、蛇の化身が来て、自分の嫁さんになる人が、

箱の中に入っているのを見てびっくりしました。

蓋を取ろうとしても取れないし、最後には腹が立って、

自分の蛇の本性を現して、その箱をグルグルとり巻いて、

パタンパタンと尻尾の先でその箱を叩きました。

それでも、娘さんは箱の中に全部引っ込んで、

少しも声を出さないようにして入っていたら、カターカター箱を叩く音がしなくなりました。

でも、クウクウ、呻声(うめき)がするので、

夜が明けるまで辛抱していなくてはいけないと思いました。

そうして、音が、ガサガサしても、何かを打つ音がしても、黙って、

夜の明けるまで辛抱しました。

そうして、ようやく朝日が登ったので、

お父さんもお母さんも、すぐにお座敷の籠のところに行って見たら、

太い蟹や小さい蟹などたくさんの蟹が、お座敷いっぱいに死んでいました。

そうして、なんと その蛇も、もう死んでいました。

何事があったのかと思って、ようやく娘が入っている籠の蓋を開けてみると、

娘は、

「実は、こぎゃんこぎゃんして、蟹がね、助けとったぎぃ、

その、二日目の蛇から三日になった時に、二日目の晩に目の覚めたから来たけん、

ぎゃんして、あの、ご恩報ばすっけん、言うとってくれて、夢枕に立っとったと」。

「そいけん、安心してその箱ン中ゃあ入っとったと」と言いました。

助けた蟹のお蔭で娘さんは助かりました。

だから、何でも理由なしに約束事はしてはいけないということですよね。

「一寸の虫にも五分の魂」という言葉もありますね。

はい、これでおしまい、チャンチャン。

(肥前伊万里の昔話と伝説 P92)

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