伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

 むかーしむかしね。

ほんに優しかお爺さんのおいござったて。

そいぎその人は、よう山ゃあ焚物取いやね、あの、行きよらしたて。

そいぎぃ、偶然、その山主さんに合うて、

「お前、なし、他ンとば切いよっかい」と言われて、

「もう、そがんしてお世話ないよっとばい」て言うてね。

そいぎんと、山主さんが、

「お前、ほんにあの、屁ふい方の上手ちゅうとは、どがんすっとかい」ち、

聞きんなさったち。そいぎぃ、

「はい。どぎゃんもこぎゃんもなかいどんのまい」ちて、その言わすもんじゃっけん、

「俺ぇにいっちょその、聞かせてくれんかい」て、山主さんの言わしたて。そいぎぃ、

「よかろうのまい」

「うん。よかどじこじゃなか。俺がよかて言うもんじゃいけん、聞かせてくんさい。

俺ゃあ、まあーだ話ゃあ聞いたごたっどん、お前の屁、聞いたことなかたい」

「そいぎにゃあ、ごめんなさい」ち言うて、屁ばふらしたぎぃ、

「その屁ふりピッピィー」ち。そして、ほんに音も良うして、その臭いも良かったて。

そいぎんと、その臭いば、こうして良う聞きよらしたぎぃ、白檀の臭いのすっごい臭いの良かったて。

そいぎぃ、その山主さんな、そいから、

「お前、どっちして、こっち切って良かたい」て。そして、

「俺も時々来っけん。お前の屁ば聞かせてくんない」て、いうごとして、

その、山ゃあ焚物取いぎゃ行たてよかろうと許されて、そいからもう、しゃあしゃあ、

山主さんに屁どん聞かせて、あの、楽しゅう焚物ば取いよらしたてたて。

そいぎぃ、だんだん評判になって、殿さんに聞こえたちゅうもん。

そいぎぃ、いっちょ、殿さんも聞いてみたかて、いうごとなって、

その、呼ばれて、殿さんの前で屁ばふらしたち。

なかなか最初、殿さんの家じゃっもんじゃっけん、

畏まっておらしたちゅうけん、あん、一・二つ屁ふらしたぎぃ、我がも楽しゅうなって、

だんだん面白うもなるし臭いも良うして、もう白檀の臭いのごたっ屁ばふらすもんじゃっけん、

殿さん達の屁かくによっていう気持ちはなかごとして、楽しゅう聞かしたてたいて。

そうして、

「今日は良か屁ば聞かせてもろうて良かった」ち言うて、褒美ば大抵くいござったて。

そいぎぃ、隣の意地悪爺さんの、屁ぶって褒美貰うないば、俺もいっちょと思うて、

「あの、屁ふり爺は如何。屁ふり爺でござい」と町ば触れて歩かしたたいね。

そいぎそいばまた、殿さんに聞こえて、その、あがんとはお城に呼ばれて、

大広間で屁ふらしたちゅうばってん、今度あどうして、意地悪爺さんやっけん、

この前の屁のごと良うなしぃ、臭いは悪しぃ、もう、ビリビリビリ、

もう座敷いっぴゃあその、だいかぶったごとさすもんじゃっけん。

「この無礼者」ち言うて、打首にならしたてたいて。

そいけん、人真似どますんもんじゃなかいどん、

もう、その前の屁ふい爺さんの良かったとは、

かねがね行いの良かったけん、そがん果報のあったと。

だから、そん時ばっかいじゃでけんとて。

毎日毎日の積み重ねが、そがん果報になってくっとじゃっけんのう。

はい、こいでおしまい、チャンチャン。

(肥前伊万里の昔話と伝説 P159)

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