伊万里市立花町渚 松尾テイさん(大5生)

 あの、猿と狐がなにしても、狐が悪知恵のあってね、その、魚をしゆっ。

建家(たちえ)加勢に帰って来よらすちゅうことを、

その、狐が何(なん)じゃいいっちょんせじぃ、

その、元はね、猿も狐も仲の良かったんだと。

そうしたところが、その、

「あさん【お前】、どがんしよっかん」ちて、

「近頃、寒うして、あい、甘か物(もん)も余(あんま)い食われんのう」

ちて猿が言うた。

「いんにゃあ」て、言うてその狐が、あの、甘か物ば食いよって。

その匂いにつられて、その、猿が狐の家(うち)に来たて。そうしたら、

「お前あ、えらい物ば食いよんのう」て。

「どがんしたとかい」て。

「うん。こがんたあ、何事(にゃあごと)なし」て、言うて。

「そいぎにゃあ、俺(おれ)ぇも、そがん良かごとのあっぎ教えんかい」て、猿が。

「うん。良かばい」て言うてその、

「実は、こぎゃんこぎゃんして、あさん、つんのうて田植え行こうでぇ」て言うて。

「人の甘かとば盗(と)っ」て。

「通るはずじゃっけんが」ち、言うてその狐が。

「まずしてみせんさい。さあ」て、猿が言うもんじゃっけん、

「うん。良かばい」て、言うてその、道、

死んだ振いして道端(ばち)ゃあ転(ころ)うどったて。

そうしたぎぃ、その、建家加勢に行った帰りに、

荷物に土産ば余計(よんにゅ)う背負(かる)うて、そのおんちゃんが来(き)よらすとに

「ありゃ。こい、狐のこけぇおっとん、死んだっじゃろうかあ、

どがんじゃい、しとっとじゃろうかあ」ち言(ゆ)うて、足で蹴ぇやってみらしたぎぃ、

その、コロッて転うで、ウンともスウとも言わんやったて。そいぎぃ、

「あら。死んどっばん」て、言うてその、引っ張って、

荷物ばもっとんもんじゃっけん、こう、引っ背負(かる)うたごとして、あの、しよって。

(車力ば引いとらしたてかにゃ、その建家加勢のおんちゃんが。)

そいぎぃ、その車力ン上、ヒョイっと乗せて、その、帰よらしたて。

そうしたぎぃ、車の下(しち)ゃあ、ゴツゴツ道のしとっでしょ。

ゴツゴツしとっ拍子、拍子にその、狐は、土産ばおっ盗(と)って、

転げ落ちた振いで、跳うでちん逃げたて。

そうして、おんちゃんな帰ってみらしたぎぃ、

我が家(うち)到着(とじい)て見らしたぎぃ、土産も狐も、何(なーい)もなかったて。

あいたしもうた。

もう、ゴツゴツしたとのかっかやあとじゃろうかにゃあ、と思うて、

いっちょらしたぎぃ、あの、猿が、そがん聞いて、我がもしゅうでしたぎぃ

「もう、また、こん畜生(つくしょう)。今度(こんだ)あ、猿の」こがんことしとっ」て。

「そうそう、あいさるっもんかあ」て、言うて今度は、また、蹴ったいなんたいしてみらしたて。

そうしたら、余(あんま)い痛(いた)しゃあ、その猿は、

「ギャー、キッキッ」て言うてその、ちん逃げたちゅうもん。そいぎぃ、

「その、俺(おら)、失敗した」て。そいぎ狐が、

「お前(まい)、そがんもう、鳴き声ば出すけんたあ」て。

「俺(おら)、どがん蹴られても、叩かれても、黙(だま)―っとったとけぇ。

うん。そいぎお前(まい)、叩かれたいなんじゃいすっとのいやないいば、

まいっちょ、そいぎ方法のあっけん、俺(おい)も時々、こぎゃんすっばってん」

て、言うてその、

「池に、その、尻尾ばつけておれぇ」て。

「そいぎぃ、余計(よんにゅ)う魚のそれ、かがいつく」て。

「そいぎぃ、良か塩梅(んびゃあ)の時、引き上げて、

あいすっぎもう、生きた魚ば食わるっ」て、教えたて。そいぎぃ、

「そいが良かのう」て。

「うっかい人間共(どめ)ぇ、関い合いよっぎ叩かれたい、

蹴られたいして、俺ゃもう、あん時は死んがめ合うたけん、そいが良か」ち、

言うてその、猿が、堤ン所(とけ)ぇ行たてぇ、その、こう、尻尾ばつけとらしたて。

そうしたら、だんだん寒うなって、池の水のだーんだん氷って、

だーんだん尻尾もせつのうなって、重とうなっち。

「ああ、余計(よんにゅ)う魚の食いつきよっばい」て。

こいで良し、まちっと、まちっと余計つくごとと思うて、欲張ってしとらしたところが、

もう、どうもこうも引き上ぎゅうでしたぎぃ、引き上げられんごと重とうなったて。

そいで、もざもざしよらしたぎぃ、夜の明けて、その、朝早う早う、

その、近辺の姉(あんね)どんが、その、水汲みぎゃ近辺から、

「あら、猿のあつけぇ座(かご)うで、動きゃえじおっ」ちて、言わしたぎぃ、

今度(こんだ)あ、犬が来て吠(ほ)ゆっし、何が吠ゆっしでもう、あの、姉やん達から棒持って、

朸(おーこ)持って来て、追われたいなんたいして、もう、ほうほうなめで逃ぎゅうでさしたぎぃ、

尻尾がストーンと、つん切れて。

そして、そのまま逃げらしたて。

そいからがもう、狐と猿は、恐ろしゅう仲の悪うなったて、いう話ばね、聞きよった。

やっぱい、あの、人は騙(だみ)ゃあたいなんたいは、余(あんま)いすっぎでけんばいて。

結局、人は一遍な騙されても、そうそうは人間な騙されん。

そいけん、猿やら狐ばっかいじゃなか。

こがんとも全部(みんな)、その、人間に教えちゃっとじゃけんて、

お婆ちゃんが言いよらした。

(肥前伊万里の昔話と伝説 P39)

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