伊万里市南波多町府招上 横田 栄さん(年齢不詳)

 勘右衛門の息子がおった。

ある日、上方の知恵者が、

「唐津の勘右衛門が、智恵者と言う話じゃが、

上方から来てやり込められたって言うちゃ、私としてもいかん」

と言って、唐津へやって来ていた。

そして、上方の知恵者は、魚釣りに行く勘右衛門の息子と出会った。

上方の知恵者は、勘右衛門の息子とも知らずに、

「おい、おい。お前は魚釣りに行きよるか。勘右衛門の家はどこかね?」と言った。

勘右衛門の息子は、

「へぇ。魚釣りに行きよる。勘右衛門は、俺の親父よ」と、

上方の知恵者に言った。すると、上方の知恵者は、

「何を釣りに行きよるか?」と言った。

勘右衛門の息子は、

「鯨とか、大きな鰤(ぶり)とか。そう言う風なのを釣りに行きよっ」と、

上方の知恵者に言った。

上方の知恵者は、

「お前は、子供のくせに、どうしてそんなものが釣れるものか?」

と勘右衛門の息子に言った。

息子は上方の知恵者に、

「ところで、おじさんはどこさい行きよっかい」と言った。

上方の知恵者は、

「上方で大風が吹いて、臼が飛ばされてしまった。

それが、こっちに飛ばされて来たじゃないかと、探しに来た」と、

勘右衛門の息子に言った。すると、勘右衛門の息子は、

「あぁ、そいですたい。家ン所に引っかかって、ブラブラしよったですよ。」

上方の知恵者は、勘右衛門の息子でもこんな頓知(とんち)があるなら、

自分は負けてしまうと思って、上方へ帰りかけた。

息子が家に帰ると、

「魚釣りは、どうやったか?」と、勘右衛門は聞いた。

息子は、

「魚は釣れんやたけんど、今日は上方ン人に会(お)うた」と勘右衛門に言った。

すると勘右衛門は、

「上方ン人に会うたなら、いろいろ珍しい話のあったじゃろう」と、息子に言った。

息子は、

「『鯨とか、大きな鰤(ぶり)とか、釣りに行きよっ』て言うた」と言った。

勘右衛門は、

「そぎゃんことば、話しちゃいかん。

お前、そぎゃん大きな話ばするけん、よそん人に失礼になる」と言った。

息子は、

「向こうも、『上方で台風が吹いて、臼が飛ばされてしまった。

それが、こっちに飛ばされて来たじゃないかと、探しに来た』て言われたもんじゃい」と言った。

勘右衛門は、

「何(なん)て言うたかい?」と言った。

息子は、

「『家ん所に引っかかって、ブラブラしよったですよ』て、言うてやった」と言った。

勘右衛門は、

「お前、そぎゃん【そんなに】言うちゃいかん」と言った。

すると息子は、

「そいでん、父ちゃんな、もっといろんなことを言うんじゃなかかい」と、

勘右衛門に口答えした。

(出典 佐賀の民話2集 P245)

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