伊万里市南波多町古里 松高ソノさん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに、お母さんを亡くした庄屋のお父さんと息子が住んでおった。

ある日、お父さんが二度目の結婚したので、

息子には継母(ままはは)が出来た。

継母は息子をかわいがった。

しかし、継母は自分の子が生まれてから、息子をいじめるようになってしまった。

そして、継母は息子を殺そうと思うようになって、

「息子を殺してくれろう」と言って、奉公人に頼んだ。

継母は、息子に立派な着物をふろ敷き包みにして持たせ、

奉公人と一緒に奥山へ行かせた。

息子は奉公人に、

「お前が俺を殺そうと奥山へ連れて行きよっとは知っとる」と言った。

奉公人は息子に、

「お前を殺しはせん。ここで別れよう」と言って

二人は別れることになった。

息子は、腹が減って知らない家の門に立って、食べ物を乞うたが、

立派な着物を着ていたので、どこの家でも恵んでくれなかった。

そこで息子は、立派な着物を脱ぎ、ふろ敷に包んだ。

そして、息子はボロ着物に着替え、食べ物を乞うと、どこの家でも恵んでくれた。

息子は、そのため乞食暮らしで食べられるようになった。

ある日、乞食になった息子は、

奉公人を四十人も雇っている庄屋さんの所に行き合った。

庄屋さんは、

「お前は、どぎゃんしたとか?名前は何て付いとるか?」と、子供の乞食に聞いた。

乞食になった息子は、

「私ゃ、何も知らん時から捨てられちょるけん、知りません」と、庄屋さんに答えた。

庄屋さんは、そんな子供の乞食がかわいそうになって、

「うちの風呂焚(た)きになってくれ。ちょうど手も足らんけん」と言った。

その日から、乞食になった息子は、そこの風呂焚きをすることになり、

庄屋さんから名前も、灰坊と付けてもらった。

ある日、その村で芝居があった。

庄屋さんに雇われていた四十人の奉公人たちは、

立派に着飾って、その見物に出かけた。

その後、灰坊は、着物を入れていたふろ敷き包みを床の下に隠していたので、

それを取り出し、立派に着飾った。

そして、灰坊も一人で芝居見物に出かけた。

立派に着飾った灰坊が芝居を見ていると、

芝居は見ないで、誰でもが灰坊ばかり見ていた。

誰でもが、今まで見たこともない美男子に見惚れた。

灰坊は、奉公人より早めに戻り、着物を脱ぎ替えた。

そして、灰坊は何もなかったように風呂焚き場にいると、

そこへ奉公人の一人が芝居見物から戻って来て、

「今日はね、お前が来なかったが、ほんに良か男の来(き)よらしたぞ。

芝居よりも、その男ばっかり誰でもが見惚れとったばい。

灰坊も来たら良かったいどん」と、灰坊に言った。

灰坊は知らないふりをして、

「へぇ、そうかい」と、その奉公人に言った。

芝居は三日続いた。

灰坊は、三日間とも立派な着物を着飾って、遅れて芝居を見に行っていた。

芝居のことよりも、美男子のことが村じゅうの噂になった。

その噂が、病気で寝ていた庄屋の美しい娘の耳にも入った。

娘の病気は、医者に診(み)せても重くなるばかりだった。

娘は奉公人の一人に、

「今日も来(き)ちょらしたかい?」と、元気のない声で聞いた。

庄屋さんは、娘の病気が心配だったので、美男子の噂など、どうでも良かった。

しかし、娘の美男子のことを聞くものだから、庄屋さん四十人の奉公人たちに、

「お前たちも、娘に聞いてやってみてくれろ」と頼んだ。

奉公人たちは、娘さんの所へ行ったけれども病気は治らなかった。

庄屋さんは、

「どうでんこうでん、灰坊も娘の所へ行ってくいろ」と頼んだ。

灰坊は、床の下に隠していたふろ敷き包みを取り出して、

着物を着飾って娘さんの所へ行った。

すると、娘さんの病気は嘘のように治った。

庄屋さんを始め、奉公人たちも娘さんの病気が治ったので、大変喜んだ。

そして灰坊と娘さんは、めでたく結婚し、幸せに暮らした。

そいばっかい。

(出典 佐賀の民話2集 P240)

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