伊万里市南波多町水留 浦方藤助さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところの造り酒屋に、三人の杜氏(とうじ)がおった。

一番、若い杜氏は、こっぱ野郎とあだ名が付いていた。

ある師走の晩に三人の杜氏はお互いに、

「来年の正月は、何なりと褒美(ほうび)をもらうと良かとに【良いけれども】」

と言って、話し合っていた。

頭(かしら)の杜氏は、

「俺は、酒を一樽(ひとだる)もらうなら、良か正月の出来事に」と言った。

その次の杜氏は、

「俺は、酒の粕を一俵ばかりもらうなら、良かいどん」と言った。

頭(かしら)の杜氏は、

「お前は、何が良いか?」と、こっぱ野郎に言った。

すると、こっぱ野郎は、

「俺は、何の、……エッヘッヘッ」と笑って、はっきり言わなかったので、

「何とか言え」と頭の杜氏は言った。

こっぱ野郎は造り酒屋の咲花と言う一人娘に恋をしていたので、

「俺は、この家ン咲花さんの聟どんになりたか」と言った。

頭の杜氏はあきれ返って、

「そんなことの出来るものか」と、こっぱ野郎に言った。

その晩は、三人の杜氏たちはそんなことを言い合って寝た。

いつの間にか、三人の杜氏たちの褒美のことが主人の耳に入った。

主人は、三人の杜氏たちに、

「何ばもらったら、良か正月か?」と言った。

頭の杜氏は酒を一樽、次の杜氏は酒粕を一俵もらいたい、と言ったので、

主人から、その通りの品物をもらった。

しかし、こっぱ野郎は、

「この聟どんになりたか」と、言ったもんだから、主人は、

「そんなら、うちの咲花に歌を詠ませるから、その返す歌ば出来たら聟にしてやろう」と言った。

そこへ咲花がやって来て、

今ぞ盛りと咲く花に

いらぬこっぱの恋のかけごと

と詠んだ。すると、こっぱ野郎が、

今ぞ盛りと咲く花も

散ればこっぱの下に重なる

と返歌した。

こっぱ野郎の見事な返歌が出来たので、咲花の聟どんになることが出来た。

そして二人は幸せになったと言うことさ。

そいばっかい

(出典 佐賀の民話2集 P235)

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