伊万里市南波多町府招下 横田 栄さん(年齢不詳)
伊万里市 西 幸子さん
「虹の松原には狐がいる」と言う話を聞いて、
いくら何でも自分を騙すことは出来ないだろうと思って、
虹の松原へ行っていました。
ところが、狐がチョロチョロと出て来たので、
「お前、来ても俺は負けやせん。騙されはせん」と勘右衛門は言いました。
しばらく、勘右衛門が行っていると、
向こうの方から、きれいなお嬢さんがやって来ました。
勘右衛門は、夜、お嬢さんが通るのは不思議なことだと思いました。
そのお嬢さんは、勘右衛門とすれ違ったので、
勘右衛門は、後をつけて行きました。
すると、そのお嬢さんは虹の松原の
二軒茶屋の金持ちの家に入って行ったのです。
勘右衛門は狐がお嬢さんに化けて、
そこの金持ちの家に入って行ったのだと思いました。
それで、勘右衛門は、そこの主人を呼び出して、
「今、あなたのところに、きれいなお嬢さんが入って来たでしょう？」
と、言うと、そこの主人は、
「はい。あれは私の娘ですよ」と答えました。
勘右衛門は、そんなはずはなく、狐がお嬢さんに化けていると思っていたので、
「いいえ。狐がお嬢さんに化けたとみた」と、そこの主人に言ったのです。
すると、主人は、
「いいえ、決して、そがんとじゃなぁ。私の娘じゃっけん。
私の娘に狐とか何とか言わるのなら、あんたはもう、
そう言うことを言わるんなら、ここに絶対、来てもろうちゃいかん」と、
怒って勘右衛門に言いました。
ちょうど、そこに和尚さんが通りがかり、何事だろうかと思って、
「何の話、しよっですか？」と尋ねました。
すると、そこの主人は、
「あんた、勘右衛門さんが、私の娘に狐が化けたとか、
何とか言うもんじゃけん、ぎゃんして、いざこざ言いよっですたい」と、
通りがかりの和尚さんに言いました。和尚さんは、
「まあ、そうですか。こりゃあ、実際あんたのお嬢さんなら、
狐とか何とか、なかはずじゃけん、この勘右衛門さんの間違いじゃろう」と、
仲裁に入ったのです。そして、勘右衛門に、
「お前、そう言うことを人に言うて、何になる？
こりゃあ、一生涯のあだになるけん、あんたが謝らないかん」
と言われました。
勘右衛門は不思議に思ったけれども、
そこにお嬢さんもいるから、とうとう謝りました。
そこで和尚さんは、
「お前、どうせ、そう言う風なんじゃ、一生いかんけん、お寺の小僧にならんか？」と、
勘右衛門に勧めました。
すると、勘右衛門は、
「そうですなぁ。私も、まぁ、職も持たんでおっですけん、
あなたが、そう言われるなら小僧になりましょう」と答えました。
そして和尚さんが、
「そんなら、鏡山の下ん所に、お寺のあっけん、あそこに連れて行こう。
弟子になるには、お前のように髪の毛の長うしてはいかん。髪を剃ってやろう」
と勘右衛門に言われました。
それで、弟子入りすることになったので、
和尚さんに、髪を剃ってもらうことになりました。
しかし、余りにも痛いので、
「あ痛.あ痛」と勘右衛門は言いました。
和尚さんは、
「弟子になるなら、辛抱せろ」と、勘右衛門にやかましく言いました。
髪剃りが終わる頃、夜が明けました。
勘右衛門は和尚さんと思っていたのは、狐でした。
それで髪剃りも痛かったと言うことです。
こんなにして、勘右衛門は狐から騙されてしまったのです。
(出典 佐賀の民話1集 P256)
