藤津郡太良町今里 久米リオさん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに、貧乏人とその隣に金持ちさんが住んでおった。

ある晩、金持ちさんのところに盗人が入った。役人は、

「隣の貧乏な親父が盗まじゃ、誰が盗もうか」と言って、

連れて行こうとした時に、親父さんは妻に、

「息子が生まれたら、若松で名を付けてくいろう」と言った。

ある日、妻は男を産んだので若松と名付けた。

若松は無事に育っていたが、五つになった時、

父は処刑されることになったので、

「お父さんの顔ば見たか」と言って、母を困らせていた。

お父さんがいるという山へ出かけた。

しかし、若松は道に迷い、恐ろしくなって、

「我が家(や)さいも行きやえん」と言って、かわいそうに泣いていた。

ちょうど、そこへ金持ちさんから盗んだ三人の盗人の一人が、

「なし【なぜ】泣くか?」と、若松に聞いた。

「お父さんは、盗んだ疑いで連れて行かれた。

今日は、お父さんの処刑に合わすてじゃいけん」と、

若松は泣きながら訴えるように言った。

すると、盗人の一人が、その子が泣くもんだから、

「おどんが銭ば盗んだとに、殺されさすとは。

お前を連れて行こうだい、来い」と言って、若松を背負って連れて行った。

若松は、処刑場の近くで、

「小便しゅうごたっ」と言って、背負ってもらっていたが、

降ろしてもらって、小便はしないで、お父さんの所に走って行った。

そして若松は、

「お父さん。あんたは、盗人はしとらんとこれぇ、こけぇ、盗人のおらす」

と言って、指差した。

役人たちは驚いてしまった。

若松が指差した三人は、役人から調べられ、盗人したことを白状した。

お父さんは犯人ではないことがわかった。

その時、<祝いめでたの若松様よ>)と言って、お祝いされた。

そいばっかい。

(出典 佐賀の民話第二集 P219)

標準語版 TOPへ