鳥栖市養父町 天本 繁さん(大5生)

 ある人が乞食になって、氏神さんの下に、

乞食ゃお宮によう泊まってなあ。

泊まっとったっちゃげさん。

そしたら、氏神さんの集会があった。

泊まっとっお宮でありよったげな。

そげな乞食の、村も氏神さんのことを、

「まあーだあそこの氏神さんな、

まだ、今晩何(なん)しよっじゃろうか」

ち、言うたげなら、

「あの人は、いつでん真面目に来るけんで、

来るはずばってんが、なしてぎゃん遅かじゃろうかない。

もう、来(く)った来っけん」ち言うて、

話おらすとば乞食がじーっと聞いよったげな。

そしたげなあ、

「ああ、ござった。ござった」ち、言うてその、

「何(ない)しよったかい、お前(まい)。そぎゃん遅う」ち。

そいぎにゃらあ、

「実は、今朝お前(まい)、河童に貰わるる人間が、

打ち込んでおったたい」ち。

「そいけんで、実はあ、ちょっと、

餅ば搗(ち)いて食わせおったけんで、遅うなったたい」ち。

そうすっと、河童は時間で貰(もろ)うとるげなもんなあ。

「何月何日の何時にその、出てきたとを取ってよか」

ち言(ゅ)うて。

そいけんその、餅ば搗きおったけど、

餡(あん)やら暇のいったでしょう。

そいけんで、その、延ばせたちゅうわけたい。そっから

「川渡り」ちゅうて、餅ば搗(つ)いて食うごとなったち。

川渡りちゅうげな。

餅ば搗いて食いよったけんで、

そん時間に遅れて来たわけたん。

そいけん、そのまま川渡りちゅうて餅搗(ち)くと、

「川渡り」ち言うて。そいで、それば、

日にちは前は何時じゃったか知らんばってんが、

新正月の流行(はや)る前は、新正月に

「川渡り」ちゅうて、餅ば搗きよった。

今、新でばっかいじゃっけんなた。

一月一日に餅を搗いて、そうすっと河童から逃れるち。

元、旧正月ばっかいやった。

そいで、餅ば食うて、

今度、川渡るぎんと時間が遅れとるけん、

河童が出会われんちゅうたい。

                              [一五一C 産神問答・水の神型(AT九三四)]類話

(出典 鳥栖の口承文芸 P114)

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